学年と言う壁を越えて、俺が苗字名前とそんな日々を送っている間に、なんと鳴上には彼女が出来たらしい。海老原あい、よくも悪くも有名人だ。
天城と人気を二分するほどの美人。俺はタイプじゃないんだけどさ。あ、別に嫉妬してるとかそんなんじゃないぞ。鳴上は男前だし、ペルソナいっぱい出せるし。
いや、海老原にとってペルソナ云々のメリットがあるかと言われれば多分まったくねーんだけど、まあなんでも出来るって話でだな。
要するに、男の俺からしては転校早々、あいつに彼女が出来てもわかるわ〜って話なんだが、そんな俺とは裏腹に、どうも里中はそのことが気に食わないらしい。
「授業さぼったりみんなの前でベタベタしたり・・・、今日だって!事件のことよりデートを優先するなんて、鳴上くんらしくないよ!!」
たしかに、やや尻にしかれてる感は漂っているけども。
しかしこれは・・・もしかしてもしかすると里中のやつ、鳴上のことを??
「なるほどなるほど、わかったわかった。泥船に乗ったつもりで、ぜーんぶ俺に任せとけ!」
「意味わかんないんだけど・・・・」
恋愛ごととは無縁な人生を送ってきたであろうあの男前な友人のため、不肖ながらこの花村陽介、ひとつ働いてあげようではありませんか!
(ここは正々堂々、海老原と同じバスケ部に身をおいて、がちんこ対決するべきだろ!)
そんな思惑で里中をバスケ部マネージャーに就任させるべく、放課後、二人で体育館にやってきた。もちろん里中本人には伝えていないから驚くだろうけど、体育会系のこいつにはこの方法が一番だ、と確信している。
里中がんばれよ、鳴上がどっちを選んでも、俺はお前の味方だからな。
そうして体育館に到着すると、裏手の焼却所でゴミを出してきたのであろう、空のゴミ箱を持った苗字名前があらわれた。
空のでかいゴミ箱・・・・両手に8個持ちかぁぁ、あっははははは・・・・・
「苗字ぁああああだから大物をいっぺんに持つなとあれほどくぁwせdrftgyふじkぉp」
「あ、はなむら先輩、さとなか先輩、こんにちは」
「こ、こんにちは〜って・・・えっ!?なになに?!苗字さんってここの生徒だったの!??」
何も知らない里中はひとしきり、俺が聞いたときと同じような会話を苗字名前とかわし、話はようやく今、目の前にあるバスケ部に向いた。苗字も何やら興味深げに、里中の横で覗き込んでいる。
体育館の中では、ごろごろとバスケットボールが転がった中で一条が部長らしく、部員みんなに何やら話をしていたようだ。
様子を見て一条に声をかけ、里中をマネージャーにと伝えると、予想通り里中本人が「はぁ!?そんな話で呼び出したの?!聞いてない!」と素っ頓狂な声をあげているがキニシナイ!
恋するオンナって大変だよなぁ、ま、がんばれ里中!
早速、ライバル・海老原からも熱い視線が飛んできているようだし。張本人の鳴上はまったく理解できてないようだがな、もてる男は罪だね。
この短いやりとりを静かに見守っていた苗字名前が口を開いた。
「ばすけっとぼーる・・・・・・?」
「やっぱ初めてか、バスケット見るの。ああいう風に、このボールをあの網の中にいれるスポーツな。」
一条がシュパっときれいなスリーポイントシュートを決める。
「お、興味わいたらマネージャーでもいいから来てくれよな!歓迎するぜ!」
爽やかバスケットマンの一条スマイルが炸裂する。
こいつもイケメンで愛想よくてスポーツが出来て、の3拍子ぞろいなんだよなぁ。合コンもちょいちょいしてるみたいだし、彼女の一人や二人いてもよさそうなもんなのに、いまだにいないってのはどういうことなんだか。面食いなのか?
男の俺が同じ男の一条にそんな感想を抱く横でもさすが苗字、この一条スマイルをくらっても顔色一つ変わらない。
むしろ、視線は一条本人を通り越して先ほどボールを通したばかりのゴールに向いている。そして、足元に転がっていたバスケットボールをひとつ拾い
「あぁいう風に・・・・・」
そういって苗字はボールを持ったままコートのハーフラインに立ち―――
「え・・・・・?」
「ちょ、苗字・・・・・?」
シュッ・・・
スパンっ!!
とん、とん、・・・・・
まったく無駄のないフォームで、なんとシュートを決めてしまった。
集まる視線。一瞬の沈黙。
直後、その沈黙を吹き飛ばすような歓声が体育館に響き渡った。
「って、お前はブザービーターか苗字すげぇええ!!!」
説明しよう!
『BUZZER BEATER(ブザービーター)』とは、あのバスケ漫画の神髄・スラムダンクを生み出した井上雄彦先生の作品の一つであり、その1巻には本作の花ともいえるチャチェという女子がハーフラインからのロングシュートを決め、世界的スリーポイントシューターの男の度肝を抜くシーンがあるのだ!
「って、解説いらねえぇえええ!!!」
驚き:ツッコミ=8:2くらいの割合で、こんなときにも忙しい俺。働きすぎだ俺。
それ以上に驚きをかくせない面々が、尊敬の眼差しで苗字を見つめる。
「すっげぇえええ!こんな神業できるやつが本当にいるなんて!ねぇきみ、バスケ部入らない!?
っていうか、今度の練習試合、出てくれない!?」
「落ち着け一条!苗字は女子だぞ!」
「はい、やってみます」
「って苗字ぁあああ安請け合いしちゃ駄目ぇええええ!」
「うん、下手な幽霊部員よりよっぽどいい線いってるよ。ちょっと感動しちゃったアタシ!」
「里中ぁああ目を輝かせながら軽く言うなぁああ!!」
「男のカッコさせればいいんでしょ?アタシが完璧にやるからさ、いいんじゃない」
「海老原ぁああおま!苗字は女子なんだぞ!怪我でもしたらどうすんだよ!」
なんでこいつらこんな無邪気に盛り上がっちゃってんの!?このおばかさんたちに何とか言ってやって!鳴上!

「「「さんせーい」」」
「鳴上いいいいい!!!!」
かくしてバスケ部には、新マネージャー里中に加え、俺と苗字名前、二人の臨時部員が増えた。