ある日の帰り道、私は小鳥を拾った。
巣から落ちしまっていた小鳥。
その子のために鳥籠を買って、大事に大事にしていたの。
でも、その子はいなくなってしまった。
籠が開いていたせい。それは私のせい、私が閉め忘れてしまったせい。
あの小鳥は、まだ見ぬ広い外の世界へ飛んで行った。
そう、自分の意志で飛んで行ったんだ。
薄暗い廊下を、先頭を行く里中は息もつかず駆け抜ける。俺と鳴上はそのうしろをただひたすらついていく。女だてらに先陣を切る姿はまさに戦車だ。
「おい里中ぁ!病み上がりなんだから、あんま無理すんなって!」
「雪子!どこなの雪子っ!」
「聞ーてねぇし・・・・」
「里中!あまり無理するなっ」
「大丈夫だよ鳴上くん!こんなのどってことないよ!!」
シカトされた俺のハートはどうってことあんだけど(涙)
ペルソナとメガネを手に入れた里中は、初陣とは思えない動きで奥へ奥へと進んでいく。
天城―――もし天城にも、俺や里中と同じように、このテレビの世界で自分のシャドウが生まれてるんだとしたら、それはいったいどんな本音なんだ・・・・?
老舗旅館の跡取りというしがらみ。
私は振り切ってどこかに逃げてしまいたいんだ。
だって
学校帰りに寄り道なんてしたことない。旅館の手伝いがあるから。
親友の千枝からの遊びの誘いも、何度も何度も断って。
物心ついた時からそうだったの。
私は旅館の子。家業を手伝うのは当たり前だと思っていたし、それを投げ打ってまでやりたいことなんて、未だに思いつきもしない。
そうやって、ずっと流されるように生きてきたのが今の私。
優柔不断で、どうしようもない、私。
千枝は、そんな私とずっと仲良くしていてくれる。
困った時は、いつだって私を助けに来てくれる。
優しい千枝、大好きな千枝。
ねえ、千枝。千枝ならきっと私を、私を――――――
”雪子は旅館の跡取りだし、それはしょうがないことかもだけど―――”
『あのときだったよね』
『あぁ、千枝は私をここから連れ出してくれないんだ。』
『そう完全にあきらめたのは』
だれ・・・誰なの?!姿を見せて!
『ふふ・・・見たい?知りたい?私が誰なのか・・・・』
『わたしは』
『あなた』
そして俺たちはとうとう天城と―――そして雪子姫、二人の天城とご対面した。
『千枝・・・そうよ、私の王子様。
いつだって私をリードしてくれる。千枝は強くて素敵な王子様。・・・だった』
「だった・・・・!?」
『でも、もういらなぁい』
天城のシャドウがそう言い放った瞬間、数歩、前に踏み出していた里中の頭上に、大きなシャンデリアが、いかつい音をたてて落ちてくるのが見えた。
突然の出来事に俺も里中も固まってしまったそのとき、右隣にいた鳴上が動いたのが視界の端に見えた。
そして
「アラミタマ!」
ガシャン!!と鋭い音を立てて、里中を守るように光の壁が現れ、あの大きなシャンデリアを弾き飛ばす。
こいつ、いったいいくつのペルソナを持ってるんだ!?
そう、思わず鳴上のほうを見てみると、そこには昨日の出来事を思い出す光景が。
「―――手に入れた戦車のアルカナ、属するのは”堅固”のペルソナ―――」
「きみ、は――――」
「「苗字名前!!!」」
俺と里中の声がダブる。
鳴上の前には、昨日と同じように鳴上と右手を繋いだあの女子――苗字名前の姿があった。鳴上本人も、二度目とはいえその唐突な登場に驚いているようだ。
その突然の乱入にも動じず、シャドウは暴走を続ける。
『老舗旅館?女将修行?そんなウザイ束縛っ・・・・まっぴらなのよ!!』
「くっそ・・・!ペルソナ!!」
暴言に耐えかねた里中がペルソナを出すが、それもシャドウの力によってあっという間に里中のペルソナもろとも赤いカーテンに巻きとられ、動きを封じらられてしまった。
それに次いで、先ほど吹き飛ばされたシャンデリアが再び俺たちのほう目掛けて投げられる。ジライヤでなんとかそれを食い止めようとするが、思いのほかバカでっかく重たかったそれは逆にジライヤごと壁に叩きつけられそうになり、俺はほどなくシンクロしてくるだろうその痛みを予感して目をつむった。
・・・・だが、痛みの代わりにまたもや鉄がぶつかり合う鈍い音を聞こえ、恐々目を開けると、壁にぶつかる直前で床にたたきつけられたのであろうシャンデリアの残骸と、その上にいつの間にか立っていた苗字名前の姿が見えた。
「無事?」
「あ、あぁ・・・」
今のもこいつがやったのか?いつの間にか手を離されている鳴上もその顔を見る限り俺と同様、疑問符だらけのようだ。
そんな空気も読まず、彼女は涼しい顔で壊れたシャンデリアから床へ舞い降りる。
「ムホ!あのプリチーガールは何者クマ!?ヨースケ、知り合いクマ!?」
「いや、知り合いっつーか、俺もよくは・・・ってイテテテ!クマっ、髪の毛むしんな!ハゲる!」
「ヨースケのくせに生意気クマー!クマにも紹介するクマー!」
「くせにってなんだ、くせにって!俺だって名前しか知らねーんだよ!」
「おいっ、二人とも!くるぞ!」
「「ほえ?」」
鳴上の声でようやく今の状況を思い出したが、時すでに遅し。
『たまたまここに生まれただけで、生き方を死ぬまで全部決められている。』
『あぁ嫌だ、イヤだ・・・っ』
『イヤぁー―――――――――――っ!!!!!!!』
シャドウの耳をつんざくような悲鳴とともに、シャンデリアの蝋燭が燃え上がり、飛び散った蝋が俺たちの足にまとわりつく。
「うぁあっちいい!!な、なんだよコレっ!」
「う、動けないっ・・・くそっ、このままじゃ・・・・!」
「センセイ!ヨースケ!あわわわ名前ちゃんまで・・・!」
声のほうを見れば、クマを守ろうとしたのか、苗字名前の右腕にも蝋がまとわりついていた。
「・・・気を付けて。くる。」
わずかに眉をしかめてはいるが、声はまったく冷静さを失わずシャドウを見つめている。
こいつは・・・・いったい何の理由があって、俺たちを守ってくれるんだ・・・・?
シャドウに一撃も与えられないまま、身動きを止められてしまった俺たちを見て、天城はいよいよ膝をつき、震える声でやめてくれと繰り返す。
『どっか遠くへ行きたいの。ここじゃない何処かへ。』
『誰かに連れ出してほしいの!一人じゃ出ていけない!』
「やめて、やめて・・・・っ」
『希望もない、出ていく勇気もない。だからあたしはじっと待ってるの。』
『いつか王子様が連れ出してくれるのを!ここじゃない何処かへ、連れて行ってくれるのを!』
「お願い・・・・もう・・・・!」
『老舗の伝統?町の誇り??んなもんクソ食らえだわ!!』
「っなんてこと・・・・・!?」
『それがホンネ。そうよね?あたし・・・?』
「っ違う・・・・あんたなんか・・・・」
「ダメぇ!雪子!!」
「あんたなんか、私じゃない!!!」
天城の叫びをきっかけに、人型だった天城のシャドウが真っ赤な物々しい怪鳥へと変わる。そんな映画のような光景を目の当たりにして怯んだ天城は、その一瞬をついて大きな鳥籠へ捕えられてしまった。
そのシャドウの暴挙に、里中が怒りを露わにしてカーテンの拘束を切り裂き立ち上がった。
「雪子っ・・・・待ってて、私がっ、私が全部っ、受け止めてあげる!!」
シャドウが羽ばたかせた赤い羽根がそこかしこへ舞い、光ったと思った瞬間、羽は大きな音を立てて爆発し、視界は炎の海に囲まれた。
その火の熱さに俺と鳴上の足を拘束していた蝋は溶け、なんとかこれで全員動けるようになったわけだが、
「苗字っ、腕は大丈夫か!?」
鳴上の声につられて目線をあげると、薄布一枚でおおわれていた苗字名前の右腕が露わになっていた。

その細い腕には、先ほどの炎で蝋が溶け落ちたときついてしまったのであろう火傷跡がところどころ痛々しく残っている。
「大丈夫。動く」
そう腕を軽くふって見せるが、その肌の生白さが火傷跡をさらに痛々しく見せる。鳴上も同じように感じたんだろう、眉を顰めて彼女の腕を見つめる。
「およよよ・・・・クマのせいくま・・・・」
「違う、誰のせいでもない、私のせい。そんな顔しないで」
苗字名前はそう言ってクマの頭をひと撫でする。
「いくぞっ、花村!!」
「おう!やっちまえジライヤぁあ!!」
早くケリをつけないと俺たちはもちろん、生身で捕われている天城やこの苗字にも危害が及ぶ。そう痛感した俺たちは全力でペルソナをぶつけていくが、シャドウのガードはそれを上回る強靭さでびくともしない。
そのシャドウのすぐ横に捕まっている天城だけでも助けようと里中が動くが、例のシャンデリアにまたもや妨げられ、逆に床に叩きつけられてしまった。
『千枝は、千枝は私の王子様なんかじゃなかった・・・』
『ずっと・・・ずーっと・・・私を連れ出してくれるのを、待ってたのに―――!!!!』
「やべっ、真ん前だ里中!逃げろぉ!!」
「くっ、ジャックランタン!!」
どこか悲しげにも聞こえるシャドウの怒声に、俺たちを襲う炎はますます勢いを増して燃え広がっていく。
「雪子っ・・・・」
鳴上のペルソナで最前線にいた里中はなんとか直撃を免れたが、シャドウのその叫びにつられるように、どこか泣きそうな顔をしている。
手も足もだせずにいる俺の前には、その細い体で俺を守るように立つ苗字の姿が。
俺も里中も弱気になった瞬間だったろう、そのとき、一部始終を見守っていた鳴上が口を開いた。
「里中は王子様じゃないかもしれない・・・だけど、それがなんだ!
里中は、天城を助けたくてここまできた・・・・
自分を本気で思ってくれる人がいるのって、すごいことじゃないのか・・・!?」
「・・・鳴上くん・・・・!」
『私は・・・・・わタしはぁああアアあああ―――――!!!!!!』
火の威力がまたいっそう強まったが、シャドウが鳴上の声に揺さぶられていることは確かだ。里中も火の海を物ともせず、天城へ向かって再びしっかりと近づいていく。
あぁ、こいつやっぱすげーや。おれたちのことをぐいぐい引っ張って行ってくれる。鳴上の一声で、里中も俺も立ってられるようなもんだ。
そう思ったとき、俺の前にいた苗字の横顔が周りの炎に照らされてはっきりと見えた。
鳴上を見て、微笑んでいた。

あの彼女が 笑っていた。
吹っ切れた天城は自分を囲っていた籠を自ら飛び出し、里中がそれを全身で受け止める。
予想外の展開に混乱したシャドウは、俺と鳴上・里中のペルソナによって追撃され、なんとか今回の戦闘が終了した。
天城のもとに青白く光るカードが一枚――――天城のペルソナだろう。
疲れと安心感からか、そのカードを受け止めた瞬間、天城はよろけて里中に支えられる格好となる。
「みんな・・・助けに来てくれたのね、本当にありがとう。千枝、花村くん、鳴上くん、それから―――」
「なぁ、苗字!」
初対面の天城に代わり、さっさと引き上げようとしていた苗字名前を鳴上が引き止める。
「苗字、さん?あなたも、助けてくれてありがとう」
「いえ・・・無事でよかった」
こちらに向き直って、淡々とそう告げる。
さっきの笑顔がまた幻だったんじゃないかと思うほどの無表情。
まるっと出た右腕に、また少しの申し訳なさを覚える。
「怪我をさせてすまない・・・、一つ、教えてくれ。きみは一体、何者なんだ?」
「・・・・わたし・・・・・」
里中と天城と、俺たちみんなの疑問を鳴上が代弁する。
彼女は一呼吸おくと、まっすぐに俺たちを見つめて澱みなく答える。
「私は、はなむらようすけ が作り上げたひとつの形。」
彼女に集まっていたみんなの視線が一斉に俺に集まる。
え・・・・?
俺!?俺、関係してんの!!!?
「花村・・・くんが?」
「作り上げたって・・・、そんな、粘土じゃないんだから・・・」
「・・・・君は、普通の人間ではないと言うことか?」
鳴上がためらいがちにそう聞くと、彼女はその通りと言わんばかりに首を縦にふる。
人間じゃないって、どういうことだ?だって見た目、思いっきり人間じゃないか。あとこのテレビの世界にいるのは・・・シャドウ・・・くらいじゃ、ないか・・・?
途端に俺たち4人の間に緊張が走る。わずかな沈黙がこんなにも長く感じる。
彼女もこれ以上、口を開く様子がない。
ど、どうするんだ?どうなるんだ??
ピッコピッコピッコ♪
そんな空気を壊すファンシーな足音がひとつ。
クマが何の警戒もなく彼女に近づいていき、あろうことか躊躇なく抱きついた。
「おっ、おいクマ!?」
「・・・なんか〜すっごく、いい匂いがするクマ〜・・・どこか懐かしいような・・・」
「コラ!新手のセクハラはやめなさいよねクマ!」
里中、クマの安全より女子としての防衛本能が働いたか、そのツッコミ。
鳴上も驚いた顔をして一人と一匹の動向を見守っている。
そんな外野の声を気にせず、彼女はすっと腰をおとして、クマと同じ目線で語りかける。
「あなたはここの世界の住人だね。」
「そうクマ!名前ちゃんもそうクマ!?」
「ちがう、でも私はこの世界のこともいつも見てる。だから、どうか気をつけて、ね」
「クマ〜んvvv」
頭を撫でられてもんのすごく気持ちよさそう。何アレ、なんかすっげうらやましいんですけど。
ひとしきりクマを撫でたところで、苗字名前は姿勢を戻して俺たちを見据える。
「私も、あなたたちと同じく真実を求めてここに来た。力になりたい。」
「お願い。あなたたちと一緒に、私を連れて行って。」