夏服!晴天!八十神高校に来て初めての課外授業・林間学校!そして!!
「あ、あんな物体X、マジ無理だわもう・・・ぉおぇっ・・・!」
「は、花村っ、しっかりしろ。救護テントは目の前だっ」
6月17日(金)
林間学校・初参入の花村たちを出迎えたのは、同じ班の里中と天城が奇跡の配合で生み出したカレーと呼ぶのも憚られるほどの超絶的に不味い昼食だった。
不味いだけでは飽き足らず、その物体Xがストマックにまでダメージを及ぼしてきたために、まだ始まったばかりのお泊りイベントで花村は早々に体調不良に陥り、こうして鳴上に肩を借りて歩いている。
向かったのは保健委員の待機するテントだ。
幸い調理場からテントまでは近かった。
完全に鳴上に体重を預けて歩く状態だった花村は自分の足元しかろくに見ていなかったが、テントのほうからわずかに聞こえた話し声と数人の足音に、気休めとはいえ何かしら薬がもらえると確信し安堵の溜息をつく。
「すみません、胃薬をください」
「なんか、腹の調子がおかしくて・・・あっ」
「?花村?」
ゆるゆると顔をあげた花村が、そこにいた保健委員の顔を見て動きを止めた。その保健委員当人も、あからさまに不愉快な感情を顔に出してこちらを見ている。理由はまったくわからないものの、明らかに長居してはいけないと空気を読んだ鳴上が保健委員から胃薬を受け取ろうとすると、差し出したその薬の端を手放さないまま鋭い眼差しで向こうが口を開いた。
「おれ、小西尚紀っていいます」
聞き覚えのある苗字に、鳴上はこの空気の原因を瞬時に理解した。
「おれ、嫌いです。花村も・・・あんたも」
そこに追い打ちをかけるように、小西尚紀は鳴上の目を見て静かに、しかししっかりした声でそう言い切る。
鳴上たちが血の気の多い男子だったら、彼の胸倉でも掴んで殴り合いが始まっていたのかもしれない。それを抜きにしても、相手が相手。突然の暴言に二人は何を言い返すこともなく立ちすくんでいると、
「嫌いなの?二人のこと」
「!苗字さん・・・。おかえり・・・」
「苗字!?」
尚紀は自分の背後にいきなり表れたもう一人の保健委員に、驚きでやや表情を変えつつも静かに声をかける。どちらかというと鳴上と花村のほうが、この相変わらず神出鬼没な出現をする後輩に驚いているようだ。
苗字名前の手には大きなクーラーボックスとタオルが数枚、握られている。机の下へ静かにそれを置くなり鳴上の手に渡された薬に気付き、立ちっぱなしだった彼らに声をかけた。
「なるかみ先輩、どこか痛むんですか?」
「あ、あぁ、違う。俺じゃなくて、花村がな」
「はなむら先輩?大丈夫ですか?」
「え!?あ、あーまあ大丈夫。うん、薬もらったし大丈夫だから。も、持ち場に戻るな!じゃあな苗字!」
「あ、じ、じゃあ苗字、頑張れよ。仕事」
そそくさと去っていく先輩二人の姿を見送って、テントには苗字名前と尚紀、二人が取り残される。
「―――ええと、ここ、代わりに座っててもらっていい?おれ、ちょっとトイレ行ってくる」
座っていたパイプ椅子から立って尚紀が彼女にそう言うと、その背凭れを掴みながら苗字は「わかった」と物わかりよく頷いた。小さくほっと息をついた尚紀がテントから出ようとすると、
「嫌いなの、どうして?」
さっき、驚いたついでにあえて答えていなかった質問を背後から再び投げかけられてしまった尚紀は少し下を向いて、わずかに沈黙した。そして、
「・・・・・偽善だから」
振り向かないままそう呟いて、尚紀はテントを出て行った。まっすぐ前を見ていた苗字名前は、足音が完全に遠のいたところでようやく彼が歩いて行った方向に顔を向けた。
「あの人たちは・・・偽善なの・・・?」
誰に聞かせるわけでなく小さな声で、彼女はそう自問自答する。どこかで賑やかに笑いあっているハチコー生たちの声が青空に響いていた。