八つ頭の一際大きなペルソナ「ヤマタノオロチ」がシャドウの前に立ちふさがり、魔人とシャドウ本体もろともその動きを絡め取る。
その圧倒的な存在感に花村たちをはじめ巽完二も呆気にとられていると、苗字名前の支えからはなれその足でしっかりと立った鳴上が声を発した。
「このうさぎのストラップ、お前が作ったんだろ?」
「それは・・・っ!?」
鳴上の胸ポケットから出された見覚えのある小さなその人形は、巽完二が作ったものだ。売り物にも見まごうその出来栄えは、手先の器用さを自慢してもいいくらいの物なのだが。
「へっ・・・おかしいかよ・・・男のクセに、こんなもん作っちゃ・・・」
巽完二は、長年のコンプレックスからそれを決して堂々とは誇れない。男なのにそんな趣味で、気持ち悪い、変な人、男 の く せ に 。
そう言われ続けた彼はそれならばと、とことん男らしい見た目や振る舞いを追及してきた。男らしい荒々しさ、図太さ、野蛮さ。その意識は瞬く間に彼の言動を変え、今や巽完二と言えば地元で札付きのワルに、男らしい男になった。はずだった。
周囲の求める男らしさに本人が追いついたところで、本当に好きなものだけは変わらなかった。
針と糸、編み棒に毛糸、水彩絵の具に真っ白な画用紙。どれも未だ未練がましく自分の部屋に置き、思い出したようにそれらに熱中しては、出来上がりと同時に会心の笑みを浮かべてしまう、そんな自分だけは。その自分の中のズレに気付きながらも放置してきた結果が、このシャドウなのだ。
見せられた自分の作品から目をそらし、自嘲的な笑いを浮かべると
「いや、かわいいと思う」
「はぁ・・・!?」
「それ、かわいいよ。完二」
「っか・・・・・・!!!!?」
鳴上が言った一言、そのたった4文字に、巽完二は思わず彼を凝視し顔を真っ赤にして言葉を失う。
そんな彼の動揺ぶりにかまわず、ストラップを鳴上から受け取った苗字名前が彼に歩み寄る。
「苗字?苗字・・・なのか??その恰好・・・」
「かんじ、あなたは何も隠さなくていい。そのままでいい」
「そのまま・・・」
「男か女か、それ以前にあなたは巽完二という人間。偽りなく生きる姿に、人は付いてくる、必ず」
「偽り、なく・・・?」
「これをあげた小さな友人にも、あなたはそう教えてあげたのでしょう?」
「!!」
苗字から巽完二の掌にそっとストラップが手渡されると、「あぁ、そうだ」と小さく呟いて立ち上がった。そして、苗字と鳴上の横をしっかりとした足取りで追い抜き、ヤマタノオロチとぶつかり合っているシャドウのもとへ向かうと、
「おれは!かわいいもんが!!好きなんだ――――――!!!!!」
そう叫んで繰り出した右ストレートが見事にシャドウ本体に直撃し、なんと彼は自分で自分のシャドウを倒してしまった。
「すっげ・・・」
「完二くん、ペルソナも持ってないのに・・・」
後ろからその様子を見ていた花村たちは、呆気にとられながらもその一部始終を見届けた。
今までと同じように、青白く光り舞い降りてきた自身のペルソナを受け止めると、さすがの巽完二もその場にへたりこんでしまったが。その傍らにふわりと降りたつ気配がひとつ。
「たつみくん、お疲れさま」
「はは・・・苗字、お前はほんと何者なんだ?」
「それはまた今度。今は早くここから出ましょう。さ、肩を貸しますから」
「いや、女に肩を借りるなん・・・って!おま!!なな、なんて恰好してんだ!!!?」
「?かっこう?」
「あぁっ!名前ちゃん!!透けてる!透けたまんま!!」
苗字名前のテレビの中の服装は、他のメンバーと同じ制服ではない。まるでどこかのゲームから出てきたかのような装飾過多・・・という単語では足りない立派なドレス姿なのだが、唯一、大きく開いた胸元が色っぽいといえば色っぽい。
しかし、その胸元の軽装さが仇となり、潜入直後、件のローション攻撃を真正面から受けた苗字名前の上半身は、完全に中の下着まで透けていたのである。
「うわぁあ鳴上!!おまっ、なんか録画できるもんもってねぇ!!?」
「くっ、ないっ・・・!!(必死)」
「そこの男子!」
「いい加減にしろぉ!!」
そんな2年の息の合ったやり取りを尻目に、巽完二は自分の上着を苗字にかけて静かに決意する。
「っ・・・、女をこんな目にあわせてまで助けてもらったこの命、無駄にはしねぇ・・・!おい苗字、困ったときはいつでも俺を呼べ。なんでもいい、ぜってぇ力になる!」
「困った、とき・・・?」
ふと考え込むようなしぐさのあと、苗字はすぐに顔をあげて言った。
「なら、あなたをこの世界に落とした人、それを一緒に探してください」
「この世界に、落とした・・・!?」
「そうなの、完二くん。それを私たちも探しているの」
「天城先輩・・・?」
「いきなり言われてもわけわかんねーよな?でもさ、これはマジなんだ。信じてくれ」
「そうか、これはなんかの事件で、犯人探しか・・・よし、のった!苗字!俺も頭数に入れてもらうぜ!?やられたからには十倍に返してやらねぇと気がすまねぇ!!」
「やった!すげー戦力じゃん!!な、鳴上!?」
「ほんと!いいよね、鳴上くん!?」
「あぁ、もちろんだ」
「あざっす!巽完二、先輩らのために命はるっす!!苗字、これからよろしくな!!」
無言で、しかし笑顔で頷く苗字名前の様子を見て、巽完二は右手の拳をさらに強く握りしめた。その顔には、やるべきことを見つけ使命感をしっかりと背負った、男らしい巽完二の笑みがあった。