How to go 12

5月17日(火)

「あっ、来たよ!」
生徒が家路につく放課後、特捜隊5人が正門前で佇む巽完二を見張っていると昨日、巽屋の店先で見かけたあの小さな少年と巽完二の2ショットを、またもやここで拝むこととなった。2人は落ち合うなり、無駄話をすることもなく校門を背に歩き出す。

「あの人が昨日、巽屋訪れたという・・・どうやら待ち合わせをしていたようですね」
「よし、俺と里中は巽を追う。鳴上と天城、それに苗字は、3人で巽屋の前を見張っててくれ」

えぇっ!?ちょ、待ってよ!と、里中が突然の花村の振りに慌てて付いていくのを見届けて、鳴上率いる3人組も早速店に向かった。


「・・・・犯人、来るかな・・・・」
「…天城、怖いのか?」
「…少し、ね・・・・・」

やや曇り空の放課後。巽屋から少し離れた神社の鳥居下で3人、店の様子を窺っていると、天城が小さく口を開いた。
店先から視線を逸らさずぽつりと呟いたその天城の横顔を、鳴上と苗字名前が見つめる。

「だけど今は、なんとかしなきゃって気持ちのほうが大きいの。私にだって出来ること、きっとあると思うから・・・・」
「・・・・あまり気負うなよ」
「えっ!?そ、そんな風に見える??やっぱり、緊張してるのかな・・・・」
「ラクにしたほうがいい。犯人がくるって決まったわけじゃないんだから」
「そのとおりですね。それに今日、万が一、犯人が来たら困ることがありました」
「えっ!?困ることってなに?名前ちゃん??」
「先生に、たつみくんが授業に出ていなかったときのプリント、届けてほしいって頼まれているんです。彼が戻ってくる前にお母さまに渡してしまったほうが、こちらとしては都合がいいかもしれません」
「あぁ、なるほど。そのほうが本人と鉢合わせする可能性もないし、苗字が見張りに来てたなんて怪しまれることもないな」
「そうだね。それに、本人が確実にいる今日、ちゃんと渡したって事実は作っておかないとね」
「…天城って、しっかりしてるな…」
「え?そんな感心されるようなこと、わたし言った?」
「…いえ、なんでもないです」

ツッコミ不在というこの3人の中で、かろうじて鳴上が会話の一点に食いつく。残念ながら、そのツッコミを拾い上げることが出来る天城と苗字ではなかった、ということが鳴上悠にとっての不運だ。
天城は旅館の手伝いというその高校生離れした社会経験から生み出された、自身の事務的かつ大人びた発言に気付くことなく、また苗字名前も、ここまでの会話の流れになんの疑問ももたず、彼の貴重なツッコミは華麗に流されていくのだった。

「というわけで、私は今のうちにこれをお店に届けてきます。お二人はそのままで」
「うん。いってらっしゃい」
「なるべく早く戻ってこいよ」

小さな子どもを送り出すかのような二人の声を背中に受けて、苗字は巽屋に向かった。もともとが目と鼻の先の距離だ、あっという間に巽屋の目の前に到着する。
小さな商店が醸し出すちょっとした敷居の高さをものともせず、苗字は表口の引き戸に手をかけ店に入る。


「こんにちは」
「はいはい、ただいま…あら、また来てくれたの?苗字さん」
「先生からの預かり物があったので」
「いつも悪いわねぇ。あの子ったらまた授業をさぼって。帰ってきたらガツンと言っておくわ」

…といって、言うことをきく子じゃないからまた困りものなんだけどねぇ、と困り顔をする着物姿の女性は、この巽屋の店主であり、巽完二の母親でもある。

「こういう風に、苗字さんがいつもあの子のことを面倒見てくれてるから、甘えちゃってるのかしらね。本当にごめんなさいね。」
「甘える?かんじくんが私に、ですか??」
「あの子、あんな風に突っ張ってるけど、こんな風に人に気にかけてもらえていたらやっぱり嬉しいと思うのよ。それに、あなたみたいに物怖じせず来てくれる子はなかなかいなくてね。なんせあの性格だから」
「嬉しい…ですか?」
「口には出さないかもしれないけどね。前回もあなたがプリントを持ってきてくれたって言ったら、そりゃあ驚いた顔をしてたけど満更でもないって雰囲気でね。ふふ、素直じゃないのよねぇ」
「そう、言っていただけると…嬉しい、です」
「…あらあら」
「?なんですか??」
「あなた、笑うと可愛いわねぇ!器量よしだからそのままでも可愛いとは思っていたけど、やっぱり笑顔のほうがもっといいわね」
「笑ってました?私」
「もっと笑ってくれると、私は嬉しいわ」
「…笑顔は、人を嬉しくさせるんですね」
「そうよぉ。それに笑顔は人にうつるものだから、相手が小難しい顔をしてるときこそ笑いかけてあげたらいいわ」

完二みたいな捻くれた子には特にね、と笑ってみせる店の主を見て、
苗字名前は思わず自分の頬に手を当てる。

「笑う・・・嬉しい・・・そうか・・・」
「そうそう、女の子は笑顔がいちばんよ」
ささやかではあるが僅かに口角をあげた苗字の顔を見て、満足そうに頷く。


その穏やかな空気を引き裂くように響くのは。
『待てよおめーら!しめんぞ!キュッとしめんぞ!?』
『ひゃぁあああ!に、逃げろぉおおお!!!!』

その落ち着きを少しも崩すことなく、しかし無表情へと戻った顔に両手を添えたまま後ろを振り向く苗字。そして彼女越しに外を見やる女店主。

「完二?!あの子ったら・・・」
ほんの一瞬、ドア越しに見えたわが子の姿に、またかという表情で顔を覆う。
事情がわかっている苗字名前には、その姿と声から、なんとはなしに今の状況が容易に察された。どうやら長居をしている暇はなさそうだ。

「あれは、かんじくんは悪くないです。多分」
「あら、そう思う?そうだといいんだけど」
「そうですよ」

何故かそう断定的に言う苗字の顔を見やると、優しく口角を上げて笑っていた。その表情に「深くは聞くな」といった意図を感じ取って、そうねと笑い返す。
そして苗字は焦るそぶりも見せずしっかりと店主に一礼し、彼らが走っていった方向へと軽やかに走り去って行った。


「な、なんとか撒いたな・・・・!」
「あぁ・・・・!」
学校帰りであろう制服姿の若者たちが、表通りから一本はずれた裏道の薄暗いトンネルでたむろする。後輩と全力の追いかけっこをした後で息も絶え絶えの男女は、場の空気も手伝って一種、異様な雰囲気を醸し出していたことだろう。
そして、この場に漂うなんとも空腹に染み入る香りは、先ほどの追いかけっこ中に危険を顧みず手に入れた愛屋の出前肉丼2つ(両方とも里中用)である。

「千枝、美味しい?」
「はぁ〜、なんだろう・・・ほっかほか・・・!(むしゃむしゃ)」
「里中、よく食べられるな、この状況で・・・」
「あ〜、アホくせぇ。こんなん、やってらんねっつーの!解散だ、解散!」
「解散って…完二くんはどうするの??」
「大丈夫だろ、放置で。あれが大人しく誘拐されるタマか?」
「…もう少し、様子を見てみよう」
「はぃはぃ明日以降な。じゃあ今日は解散っつうことで〜」
「お帰りですか?」



ブラーン


「ぎゃっ!!!おまっ、苗字!ビビらせんなよぉ!!!」
苗字、無事だったか」
名前ちゃん!よかった合流できて。プリント渡せた?完二くんには見つからなかった?」
「はい、問題ないです。たつみくんも諦めて帰ったようです。」
苗字!お前またそんな登場の仕方して、やめろっていつも言ってるだろ!」
「すみません、急いでいたものでつい」
「(あぁ、あれ、いつもなんだ)」
「(慣れてるな花村)」

自分たちの落ち着きぶりを棚にあげて、花村と苗字名前のやり取りを見守る美男美女2人。そして、

「食べ終わったどんぶり・・・どこ置いとけばいいの〜?」
きれいに完食したどんぶりを両手に、特捜隊のメンバーへ呑気に尋ねる里中の満たされた声音が夕焼けの茜さすトンネルに響いた。