中間テストが終わり、緊張していた校内の雰囲気がわずかに緩む。
同時に、この男の表情も緩む。
「いやぁ〜〜、ようやく終わったなー!」
「うん・・・・終わった・・・・」
「ち、千枝、元気出して。大丈夫よ、ちゃんと勉強したし」
「そうだ、花村なんか受けてもいない教科あるからな」
「そんときはおれ、教室にいてもいなくても同じ点数取る自信あったからw」
「あんたのそのノーテンキなとこ、ほんっと羨ましいわ」
「週明けには順位、張り出されるね・・・・」
「あーん!あたしなんて何位とか心配するレベルじゃないよー!せめてっ・・・せめて赤点だけは避けたい・・・・っ!」
「鳴上はそつなく出来てそうだよな。どうよ?ぶっちゃけ自信の程は??」
「うーん・・・・」
「まぁまぁでした」
ジュネスのバックヤードで苗字名前に聞くと、鳴上と同じような答えが返ってきた。こういうやつは得てして大体出来ている。こと鳴上や苗字のような出来杉くんクラスのやつなら疑う余地も無い。
「でもお前、テスト期間中もがんがんシフト入ってたよな。いつテスト勉強してたんだ?」
「え、テスト勉強・・・・?というか、授業さえ受けていればいいと思っていたんですが・・・・」
「授業?だけ??」
「はい、授業を受けてそれだけ・・・だと、足りなかったでしょうか?もしかすると」
なんと・・・・あの完璧超人の苗字名前がはじめて不安げな表情をした。
そうか苗字、テストなんて受けるの初めてだろうし、それ用の勉強が必要なんてことにそもそも気付かなかったんだな。なんだ、完璧に見えてちょっと抜けてるとこもあるんじゃん。うんうん、そのほうが可愛げもあるってもんだ。
どちらかというとのび太側の自分のような人間にとっては、彼女のような超人でもこんなミスをするんだと思うと、ちょっと安心するというか、近寄りやすくなる感がある。比べる時限が違いすぎるのはわかってるけど。
「よしよし。苗字は定期テスト受けるのは今回が初めてだったし、終わっちまったもんはしょーがねーって。まだ期末テストがあるからさ、そこで挽回しようぜ!試験勉強のやり方、教えるからさ!」
「はなむら先輩・・・・はい、よろしくお願いします!」
俺、なんか今すごくいい先輩って感じじゃない?頼れる先輩って感じじゃない?!新学期からこっち、自分のシャドウと対面したりテストの出来もあれだったりで最近、こんな優越感を感じること、全っ然なかったからなぁ・・・・
ん?0点とるようなやつが勉強を教えられるのかって??そりゃあ・・・それ・・・お俺だってなぁ、やれば出来るんだよ。試験勉強のやり方くらいは教えられるって!
「おお!任せとけよ!」
すべてのツッコミをスルーして全開の笑顔を苗字に向ける。
苗字が俺に向ける視線の眩しいこと眩しいこと・・・・よし、次はいっしょに頑張ろうぜ!苗字!

「すごいな苗字。全教科満点、ぶっちぎりの1位じゃないか」
「いえ、これはビギナーズラックというものですね。実際、試験対策は何もしていませんでした。今度、はなむら先輩に勉強方法を教えていただく約束なので、次はがんばります」
「いや、苗字・・・・お前は大丈夫・・・・俺がお前に教えられることは何もない・・・何も・・・・・」
「ど、どんまい。花村・・・・」
鳴上の励ましが辛い。もちろん苗字は、俺がなんでこんな落ち込んでるかわからない顔だ。はは・・・これが超人と凡人の違いというやつか・・・超えられない壁、厚すぎだろ神様・・・・・
「あ――――たつみくん」
ふと、苗字が聞き慣れない苗字を呼んだ。
俺と鳴上がそちらへ顔をむけると、金髪ピアスの見るからにガラの悪そうな男が、その見た目を裏切らない低音で「あ?」と、顔をしかめながら苗字に向き合っていた。
思わず「しっ、見ちゃいけません!」と言って苗字を引き止めたくなる風貌だが、そんな俺の心配はいつものごとく微塵も気付かないまま、苗字はたつみくんに話しかける。
「先生が、補習の日を決めたいから、あとで職員室に来いって」
「はぁ?ったく、かったりいな・・・」
「あと、今日、たつみくんとわたし日直だから、放課後よろしく、ね」
「あぁ!?」
「当番だから。それにたつみくん、この間いなかった」
「ゎ・・・悪かったよ。ったく、ハッキリ言うなお前・・・・」
呆気にとられる俺と鳴上、それもそのはず。
たつみくん こと 巽完二 は、この学校一の不良ともっぱらの評判で、昨日は昨日で暴走族を潰した不良高校生とテレビのニュースに取り上げられた挙句、マヨナカテレビにもうつった、今まさにいろんな意味でホットな男だ。そんな問題児相手に苗字名前は気安く話しかけ、しかも慈愛に満ちた微笑をやつに向けるとは、いったい何がどうなったらやつとそんな仲になれるのか。
そもそも鉄仮面のごとく無表情な苗字が笑うことすらレアなのに、よりにもよってあの巽完二相手にその表情が出るのかと、それだけで衝撃だった俺は、放課後・ジュネスに集まった里中と天城にも思わず報告してしまった。
「じあい?なんじゃそりゃ?」
「いやー、なんていうか、悪ガキを暖かく見守る保母さんのような?」
「そんなに驚くことですか?彼はクラスメイトですし、私の隣の席ですし。毎日顔を会わせていれば、それなりに親しくもなるでしょう?」
「まぁ普通はそうなんだけど、完二くんはあのとおり、見た目がちょっと怖いから・・・小さい頃はあんなじゃなかったのに・・・」
「へ?雪子、あの絡みにくそうな男と知り合いなの??」
「うん。あの子の家、染物屋さんでね?うちの旅館、昔からお土産を仕入れてるの。完二くんとはもう、ずいぶん話してないけど…」
「そりゃあ、話が速いな!んじゃ、早速その染物屋に行ってみようぜ」
「そうだね。マヨナカテレビにうつった人がテレビの中に入れられてるんだとしたら・・・・」
「あぁ。次に狙われるのは、巽完二だ」
こうして、稲羽市連続誘拐殺人事件・特別捜査会議、第一回目の活動はやつの家・巽屋への聞き込みとなった。相変わらずバイトに入っていた苗字はジュネスでの会議のみ参加となったが、結果的に彼女は俺たちに付いてこれなくて正解だった。
学校帰りであろう巽完二が、俺たちより先に巽屋に来ていた身長のちっこい男と、何やら店の外で立ち話してるのを影から見守っていたら、あっさり本人に見つかり「てめぇら何してんだコルァ!!」と怒鳴られ逃走―――。結局、何を話していたのかはさっぱりだし、同じクラスの苗字が一緒にいたら、明日、学校で苗字に「昨日、店先で何をしていたのか」と問い詰められてたかもしれない。
『 マヨナカテレビにうつった人が誘拐される 』
まだ、俺たちのこの予想が正しいかどうかが確定していない以上、本人に「お前は誘拐される」なんて注意するわけにもいかない。もどかしいが今は慎重に、裏をとっていかないとな。明日は二手にわかれて、巽屋と巽完二本人を張り込みだ!
「っつーわけで、あーまぎ♪おれにケータイ番号、教えてみない?」
「ちょっ!あんたまさかそれが狙い!!?」
「ちっげーよ、必要になるだろ〜いろいろと!」
「は〜…ってゆーかさ、あんた夜中にかけてきて下ネタとか止めてくれる?リアルに変態っぽいよ」
「横やりいれんなよ…!なっ、天城!いいだろ!?」
「そういえば・・・・・・」
「なんだよぉ鳴上!お前まで邪魔すんのか!?」
「いや、そうじゃなくて…苗字が巽完二と同じクラスなら、日中は彼女に協力を仰いだほうが確実じゃないか?」
「あ」
「そっか、それはそうだよね。名前ちゃんもこの特捜隊のメンバーなんだし、お願いしたほうが…」
「ほら花村!早く名前ちゃんに連絡、連絡!!」
「ちょっ、待て待て!おれ、あいつの連絡先しらねーよ!っていうか、そもそもあいつケータイ持ってんのか?」
「へ?そうなの??花村が知らなかったら、ここのメンバー誰も知ってるわけないじゃん・・・・・」
「な、なんでそうなんだよ??」
「だって、この中じゃ花村が一番、名前ちゃんと仲よさそうだし?」
「な、仲いいっていうの?あの状態が??」
「それに苗字って、家はどうしてるんだろうな?親兄弟がいる感じではなさそうだし・・・・」
「そ、そういえば・・・・あいつバイト終わった後、どこに帰ってんだろう・・・・」
「あ〜もう花村、しっかりしてよー。あんた保護者でしょー?」
「は!なんでおれがあいつの保護者になってんだよ!」
「え?違うの??花村くんが色々と彼女の面倒、見てあげてるものだと思ってた」
「いや天城、たしかにちょいちょい面倒は見てるかもしれないけど、保護者とか荷が重すぎだろ!」
「結局、俺たちは苗字のこと、まだ何も知らないんだな・・・・」
「目的が一緒であることは間違いないんだし、もうちょっと歩み寄って、いろいろ聞いてみたいね」
「そうだよね、悪い子じゃなさそうだし、あたしももうちょっと絡んでみよ!花村もよろしくね!」
「え、えぇ?おれ??!」
「なんだかんだ、花村が一番、苗字と一緒にいる時間が多そうだしな。頼んだぞ、花村」
いや、まあ苗字は聞けばなんでも答えてくれるから、頼まれることはお安い御用なんだが・・・・
俺も苗字名前のこと、あんなに一緒にいたくせに、何にもわかってなかったんだなぁと痛感した。心の中でこっそりと、明日の朝いちばんに彼女本人に聞いてみようと心に決めて、俺たちは解散した。